誰もが健康に生活できるデザインを 柳澤 忠
昨年発足した健康デザイン研究会の最初の仕事として、病院の4床病室のモデルを実物大で試作し、一般に公開した。
この病室モデルを作るには、私にとって色々な想いがあった。1)建築以外の人に本当に理解してもらうには実物大のモデルしかない。2)病院建築の原点は病室のインテリアデザインにある。3)患者の立場で病室を見ると家具・カーテン・ドアー・照明・色彩など検討を要することが山積している。4)現実の病院設計では診療関係の整備が優先されてどうしても病室設計は後回しになる。5)病室設計の詳細部分になると既成の工業製品の選択と組み合わせでマンネリ化しやすい。6)この会が主催した昨年1月の講演会で、日系3世の建築家村岡氏が「米国では30年前に病室が全て個室になった」と語った。日米30年の大差は深刻である。
モデル病室の提案には関連企業や医療産業各社の協力が必要であるが、幸い関連業界を集めた病室ワーキンググループが発足した。業界相互の情報交換が少なかったことを反省し、それぞれの製品の問題点を指摘しあい可能性を探った。その検討結果でモデルが実現し、医師・看護婦・建築家・一般市民に見学していただき、多くの意見が寄せられ、それらの経過を小冊子にまとめることが出来たのである。
一方、健康デザイン研究会は海外の類似の研究会との交流も進めている。主としてアメリカを中心とするもので、10年を経たヘルスケアデザインシンポジュームや来年2回目のユニバーサルデザイン会議などへの出席・協力である。それぞれ参加者の人脈も違い、主な目標も違うし、困ったことに適当な日本語訳がない。
最近、ユニバーサルデザインと同様な目標をもつ「日用品」という考え方を知った。これは誰にも使い易い製品を企業・業界を横断して普及させようとするプロジェクトであり、関係者がユニバーサルデザインとの類似性を表明していた。しかしユニバーサルデザインが建築や都市への展開を試みている点で、道具レベル中心の共用品をユニバーサルデザインの日本語訳に使う訳にもいかない。バリアフリーデザインとユニバーサルデザインの違いも論じられているが、最終目標が違うだけで個々の工夫や努力は共通している。 こうした背景の中で、私はこれらの比較的新しい英語を一括して「健康デザイン」と訳すことを提案したい。全ての人が健康に生活出来る道具・建築・都市をデザインすることに、多くの知恵と工夫を集めたい。国際的にはより相応しい言葉を使い分けていけば良かろう。用語の違いを詮索するよりも共通性を重視して成果をあげる方が良いのではないかというのが最近の心境である。
中部版 建築ジャーナル2000-1No.959より
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