アメリカの病院建築家は元気である 柳澤 忠
最近、アメリカの建築家は忙しい。特に病院建築を専門にしている建築家は元気である。アメリカ建築家協会(AIA)の中に「健康建築アカデミー」というグループがあり,昨年はがん施設について、一昨年は病床を持たない病院をテーマに専門家として提案すべく活発な情報交換をしている。
アメリカでは最近病床数の多い所謂大病院や高層の大病院は敬遠される傾向が出てきた。大学病院でも300−400床程度で、4−5階建てが好まれる。ダウンサイジングと呼ばれる。その代わり各地に素晴らしい婦人病院や小児病院が建設されている。少子高齢化時代に、お産を奨励し子供の病気を治療するのを優先するのである。こうした動向は元気な病院建築家の提案が中心になっている。
彼らは病室の広さを自ら提案する。LDRコンセプトは住宅の寝室のような寛げる産室をつくり、いざ陣痛・分娩となると医療設備が取り出される。産婦は部屋を移動せず、ストレスを与えられずに、家族にも励まされながら、新しい誕生を迎えるコンセプトで、各地で歓迎されている。
ところがこうした素晴らしい病院が全米どこでも存在する訳ではない。スポンサーがいたり知恵者がいて建築家の提案で実現し、これらが評価されると各地に流行していく。まさに自由競争であり、建築家は提案者となる。医業不営利の原則があり、基本的に競争してはいけない日本とは事情が違う。
残念ながら日本の建築家は真の提案者になれない。病床数と1病床当たり床面積を与えられ、病室面積や廊下幅も決められて設計する。全国一律の基準に従って全体面積が決められ、各部面積は全体面積をどう割り振るかといった作業で決められる。肝心の病室面積を建築家が提案する状況にない。
最近は医療法改正でもめているが、これが今後の病院の基本的な条件を決めることになるのを建築家は知っているのだろうか?
JIAに医療福祉施設専門の研究グループをつくるように提案したことがあるが実現していない。専門的な知識がなければ提案は説得力をもたない。建築家の職能を論じていても良いが、専門的な計画提案が出来るように勉強しておかないと、基本的な計画を与えられて設計する立場が続くだろう。
全体面積を与えられて割り振り設計をするのと、基本スペースを設計しながらそれらの積み重ねで全体面積が提案出来るのと大差がある。
全国一律の基準があって一定レベルのサービスが受けられる平等の世界では、元気な建築家が生まれないのだろう。
私は自宅を在宅ケアーに便利なように改造した。いざとなれば酸素を供給してくれる友人もある。病院は短期間濃厚な診療をしてくれる存在だと考えているからである。
中部版 建築ジャーナル 2000-5 No.963 より
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