ユニバーサルデザイン学生コンペ 柳澤 忠 本年6月にアメリカのプロビデンスでユニバーサルデザイン国際会議が開かれた。この国際会議が行なわれることを知った当時、日本の学生のアイデアを国際的な舞台で紹介したいと考えた。幸いユニバーサルデザインに関心をもつプロダクトデザイン系の千葉大学清水忠男教授・金沢美術工芸大学荒井利春教授・名古屋市立大学川崎和男教授、建築系の名古屋大学谷口元教授・神戸芸術工科大学斎木崇人教授の賛同を得て企画・審査委員会を設立した。資金的には松下電工の協力が得られ、健康デザイン研究会を主催者としてコンペを実施することになった。 もっとも心配だった応募数は45点あり、第一次審査は郵送書類で12点を選考し、さらに案を煮詰めてもらって、第二次審査は応募者自身による発表と、公開の審査によって1・2・3等を選考した。審査は応募者を始め、多数の学生が見守る中で公開で行なった。審査員にとっては気疲れも多く、集中力が削がれる欠点もあったが、学生にとっては自分の作品が密室で評価されるのと比較して、審査員の発言や投票経過に直接接することができて、教育効果は大きかったといえる。しかも、レベル的に都市・建築・道具の提案が同じ会場で取り上げられ、プロダクト系と建築系が直接比較されるのも珍しかったので、会場は大いに盛り上がった。 プロビデンスの会議場ではこの3点を中心に上位の作品を展示し、各国からの来場者に見てもらった。そのほか、スライドを使って口頭発表を行なった。実はこの国際会議の事務局が主催した世界の学生を対象にしたコンペは早くからホームページでPRされていたが、応募が数点で選考に値せずということで表彰式もなく、うやむやのうちに終わったから、日本での学生コンペの成功が際立ったのである。テーマを「ウェイファインディング」に絞って、しかも専門領域をまたいだグループで応募することを要求したむずかしさが敬遠された理由らしい。 ユニバーサルデザインは「すべての人に使いやすい道具や環境をつくる」という明快な設計目標(ゴール)がある。しかも既存のプロダクトや建築や都市といった専門を超えて総合的なデザインを期待している。しかし、健康な若者に高齢者や障害者の立場に立って考えさせるのは容易なことではない。その点、困難な課題に粘り強く取り組み、応募してくれた日本の学生に感謝したい。 ユニバーサルデザインは「他人の立場を思いやる心」を要求する。多くの応募者は各種施設の協力を得て、高齢者や障害者から直接意見を聞いて、自らのデザインを確かめながら工夫を重ねてくれたようである。デザイン・建築系の学生にこうした明快な設計目標をもつ課題を与えるのは大切なことだと実感した。何とかこうした企画は継続させたいが、引き継いでもらえる協力者を探しているところである。 中部版 建築ジャーナル 2000-9 No.971より |
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